鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 形態科学(旧 神経解剖学) 口岩 聡

私たち研究グループの研究

光くしゃみ反射

光くしゃみ  光くしゃみ反射とは、刺激が誘因となって反射的にくしゃみが起こる現象です。屋内から晴天下の屋外に出た時や太陽の光が直接目に入った時など、まぶしさを感じた瞬間に起こります。光くしゃみ反射は、まぶしさを感じている間だけに起こるので、くしゃみの回数は通常1回か2回で、連続して何回も起こることはありません。光くしゃみ反射は、誰にでも存在するのではなく一部の人たちだけに存在する生理的(正常)な反射です。私たちの749名を対象にした調査において、日本人の約25%の人がこの反射をもっていることがわかりました(医学と生物学、1992年、第125巻 第6号 215-219頁)。しかし、この中には「稀にしか反射が起こらない人」や「若い頃にはよく起こったが今は起こらない」などという人も含まれていますので、実際には光くしゃみ反射が日常的に起こる人はその半分くらいと考えられます。光くしゃみ反射をもつ家系では光くしゃみ反射を持つ人の割合が著しく高いので、光くしゃみ反射は優性遺伝によって子孫に伝えられると推察できます。光くしゃみ反射をもつ人のあいだでもくしゃみを誘発する光の強度には著しい個人差があり、太陽光が直接目に入った時のように強烈な光だけに反射を起こす人もいれば、室内灯の灯り程度の弱光でくしゃみをする人もいます。この現象がどのような体内のメカニズムによって起こるかについてはまだ十分に医学的に証明されていませんが、私たち研究グループは以下のように推察しています。

 くしゃみは、「鼻腔に入り込んだ異物を鼻汁ごと激しく鼻息で吹き飛ばす反射」です(余分な空気は口から出ます)。鼻腔粘膜が異物の刺激に晒されると、鼻腔粘膜の肥満細胞からヒスタミンが放出されて鼻汁が分泌されます。鼻汁が分泌されたという情報は三叉神経を介して脳の感覚中枢へ、そしてくしゃみ中枢へと伝えられ、くしゃみが誘発されます。くしゃみを引き起こす鼻汁分泌は、鼻腔に異物が入った時だけではなく、脳からの指令がトリガーとなって起こることもあります。延髄の唾液核(と呼ばれる神経細胞集団)を起始する神経線維(鼻汁分泌指令を伝える神経)は、顔面神経を介して翼口蓋神経節(上顎後深部の翼口蓋窩に存在する神経細胞集団)に到達し、さらに鼻粘膜に神経興奮が伝えられて鼻汁分泌が起こり、これが原因でくしゃみ反射が起こります。

 私たち研究グループは、鼻汁を分泌させる翼口蓋神経節は、顔面神経だけではなく、動眼神経系と結合していることを解剖学的に明らかにしました(The Journal of Comparative Neurology, vol. 300: p301-308, 1990)。目に入ったまぶしい光情報は、中脳の視蓋前域オリーブ核に伝えられたあとに動眼神経副核(Edinger-Westphal核:EW核)に伝えられ、さらに眼窩内の毛様体神経節を介して瞳孔括約筋に伝えられ、対光反射(眩しい時に瞳が小さくなる反射)が起こります。私たちは、「EW核を起始した神経軸索を含む動眼神経の小枝(細い神経)が翼口蓋神経節の鼻粘膜支配細胞領域に到達し、EW核は対光反射を起こすのと同時に翼口蓋神経節の鼻汁分泌細胞群を刺激する」と推論しています。生理学的な研究は十分ではありませんが、眩しいと感じる光情報はこの神経路を介して鼻汁分泌を起こさせ、くしゃみ反射を誘発させると考えられます。

 ちなみに、顔面神経は感情に関係する神経系です。顔面神経は、心の動きに伴って顔の表情を作り、涙を流し、顔を紅潮させます。心の激しい動きが鼻汁を分泌させることもありますので、稀ではありますが、エッチなことを考えるとくしゃみが出る人もいます。

頭蓋底と眼窩の神経網

頭蓋底と眼窩の神経網(動眼神経と翼口蓋神経節の結合を示す)


 動眼神経副核(EW核)を起始した副交感性節前線維は動眼神経(V)に沿って眼窩に入り、毛様体神経節(CG)に達する。毛様体神経節でシナプス形成したあとの節後線維またはこれを素通りした節前線維は、翼口蓋神経節への交通枝(4つの矢頭で示した)を経由し、翼口蓋神経節(PPG)の吻側部に到達する。翼口蓋神経節のこの領域から蝶口蓋神経(Sp)が出て鼻粘膜および口蓋に分布する。U、視神経:X、三叉神経:ACG、副毛様体神経節:ROP、後眼窩神経叢および神経節。OrとOcは翼口蓋神経節または後眼窩神経節から眼球へ投射する血管調節神経:矢印は動眼神経と三叉神経の交通枝(三叉神経を経由して副毛様体神経節に至る副交感神経節前線維を含む):CBは副毛様体神経節に入る三叉神経根。

毛様体神経節の顕微鏡写真

毛様体神経節の顕微鏡写真

アセチルコリンエステラーゼ染色を施した動眼神経の標本。4bは、動眼神経の毛様体神経節から翼口蓋神経節へ向かう神経。翼口蓋神経節の節後神経が鼻粘膜に到達し鼻汁分泌を起こさせると考えられるが、翼口蓋神経節への交通枝はアセチルコリンエステラーゼ陽性であるので、毛様体神経節に鼻汁分泌細胞が存在することを否定できない。動眼神経を経由する唾液核節前線維の存在は証明できないので、動眼神経が鼻汁分泌に関与しているとしか考えられない。

ネコの中脳正中部に標識化合物を微量注射した実験における中脳切片と翼口蓋神経節切片のスケッチ
ネコの中脳正中部に標識化合物を微量注射した実験における中脳切片と翼口蓋神経節切片のスケッチ

中脳の注入領域の広がりと翼口蓋神経節における順行性標識の分布を示す。注入領域はEW核(Edinger-Westphal nucleus)を覆っている。翼口蓋神経節吻側部の大型節後ニューロン周囲に環状配列する順行性標識が顕著に認められた。このことは、EW核から翼口蓋神経節吻側部への順行性投射が存在することを示唆している。標識が出現した翼口蓋神経節の吻側部は蝶口蓋神経を介して鼻腔粘膜を自律神経性に支配する。大型細胞は外分泌腺を支配することが知られている。(中外医学社 Clinical Neuroscience, Vol. 33, 2015,「光を見るとくしゃみが出るのはなぜですか?」から引用

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